ニホンゴ、チョトデキル

ゲーム中心フリースタイル妄言

ドキドキ文芸部!感想のようなもの

誰よりも私と一緒に過ごすって約束してくれる?


ドキドキ文芸部!(原題:Doki Doki Literature Club!)をスペシャルエンドまで踏破したので感想を書きます。


1から10までネタバレの嵐となりますので、未プレイの方はそっとブラウザバック……ではなく本編をDLしてプレイしてみてください。
ゲームという媒体・そして概念に少なからず愛着を持つ人にはなにか残すもののある作品だと思います。ただ、ジャンルはサイコロジカルホラーとなっていますが……。


フリゲによくあるzip配布と、Steamを挟んだDLの2通りの方法で遊べます。
日本語化パッチや立ち絵に瞬きなどの動きを追加するようなパッチも充実。非公式ではありますが登場キャラ視点ストーリーや一部の女の子とデートできるようなMODもあり、その盛り上がりから原作の人気と、それに至る完成度の高さがうかがえます。


すちむー版DLはこちら


日本語化パッチや手順はこちら
steamcommunity.com


感想をひとことで言うなら「最高におもしろかった」
ゲームをプレイする我々に対する、作者のダンさんからのラブレターみたいなゲーム。ジャンルはサイコロジカルホラーだけど。


主人公は高校に通うごく普通の男の子。漫画やゲームは好きだけど、部活に属すでもなければ個人的に何かへ打ち込んだりもしない、平凡な毎日を送っている。
そんな彼のそばには、いつも幼なじみのサヨリの姿が。
サヨリの言葉に乗せられるまま、彼女が副部長をつとめる文芸部の扉を開けたそのときから、彼と、彼を取り巻く女の子たちの、それぞれの物語が動き出す――。




ま、あまりいい方向にではないんですが。


ドキドキ文芸部をはじめてすぐ、いわゆる一周目を終えるまでの間、私はなんの疑いもなくこのゲームはADVだと思っていたんですよね。
いかにも「攻略」してくれと言わんばかりに目の前に現れる、わかりやすすぎるほどに「属性」を盛られた「女の子」たちと、立ち絵もなければ外見への言及もされないプレイヤーが共感を覚えやすいであろう趣味を持った没個性気味な「主人公」。
そして極めつけ、文芸部員としての活動の一環で行う詩作ではそれぞれの女の子が好みそうな単語を選ぶことで意図的に「好感度」を高めることができ、結果によってさまざまなイベントが起こる。
この手のゲームも好んでプレイする人間からすると、ははーんなるほどなって感じ。


だから最初に私はユリ√を攻略しようとした。
キャラクターの特徴的にも好みそうなキーワードの予測がつけやすそうだし、実際つけやすかったから。
こういう一見おとなしそうな子というのは得てして秘めたものも大きいだろう、みたいな邪推もありつつ。


そのとき、明るく元気な幼馴染であるサヨリが「絶望」やら「報われない」やら不穏なワードに反応していたのが気になりましたが、なら二周目は彼女のことを追いかけようと軽く考えて。


結果としてユリとの仲はどんどん縮まり、文化祭の前日には主人公宅で一緒に準備をすることになったわけなんですが。
ここにきてまさかのサヨリが主人公に告白
わりと重めの鬱を患っていたとかいう怒涛の新情報ラッシュに流されるまま日曜日が過ぎ、文化祭当日。
昨日あんなことがあったばかりのサヨリが部誌に載せた意味深な詩をきっかけに胸騒ぎを覚え、彼女の家へと様子を見に行く主人公ですが……………………物語はサヨリの突然の縊死により唐突に幕を閉じる。


え????
ってなるわけですよ。そりゃ。
ユリ√に入ってたのにサヨリの告白を受けたのがいけなかったのかな?とか考えているうちに画面は勝手に切り替わり、タイトル画面にはバグってガビガビに壊れたサヨリの姿が。
ロード画面にセーブデータは一つも残っていないし(いざと言うときのためにとっておけって言ったじゃん!)、おかしいと思って見に行ったゲームフォルダには変なファイルが増えてるわ「characters」からsayori.chrが抹消されているわで大混乱。


唐突すぎる縊死イラストの登場に心臓をバクバクいわせながらジャンル:サイコロジカルホラーの理由をなんとなく理解して、夜中なのもあいまって手汗をびしょびしょにかく。



そうしてここでやっと、ドキドキ文芸部というゲームはADVの皮を被った一本道のノベルゲーであることに気が付きました。
先入観って怖い。
セーブも中断のための栞としての機能しかなくて、しかも特定の場所ではセーブそのものが無効になる。(でもそのADVでよくあるセーブの仕方が重要な意味を持つ場面もあるのがまたなんとも…)


1周目2周目という表記そのものも正しいかちょっと微妙です。フェーズ1、フェーズ2みたいな表記の方がしっくりくるかも。


サヨリの消失をきっかけに「世界」はもう一瞬でめちゃくちゃになります。
バグり演出が毎回ショッキングというか驚かし系なのもあって、薄目で恐る恐るページを送ったのもあり二周目はものすごく時間がかかった。
(おそらく改竄されているだろうとはいえ)ウィットに富みまくった口撃の応酬を繰り広げるナツキとユリ、立ち絵データにバグが現れやすいナツキ、テキストがぶっ飛びがちなユリ、突然差し込まれる不穏な詩。
極めつけの首ポキで迫ってくるナツキやハイなテンションのままナイフで自死したユリと金曜の放課後から月曜の朝までを一緒にすごしたり。


どんどんおかしくなるユリに対してナツキが奮闘する様がとても響きました。1周目で見せていた和解の兆しは本物で、ナツキは本当にユリと友達になりたかったんですね。お互いの詩作の特徴を取り入れた作品を用意し合うって、このゲームが正しく機能していた頃にできていれば2人の友情が確かなものになる最初の一歩になっていたかもしれないのに……。


そうして怒涛の展開の中に、1周目でも少しずつ散りばめられていたモニカの怪しさが惜しみなく盛り込まれることになります。
というかもう一周目の終盤あたりからバリバリ自分からボロを出しまくってる通りに、モニカがサヨリ消失を含めあらゆるゲーム崩壊の黒幕なわけで。

「私」を好いてくれる女の子

モニカがメタ的な視点を持ったキャラクターであることは一周目の「壁の穴」を大きな起点にあらゆる手段で提示されていたわけなんですが、てっきり二人きりになるまで彼女は「主人公との恋が実らない」から一連の行動に出ていたと思ってたんですよね。


でも違った。
これまでの行動の動機は「あなた(主人公ではなくゲームをプレイしている)に恋をしたのに、この世界には私(モニカ)のルートが存在しない」から。
主人公と話したいと思ってもルートの存在するヒロインには勝てず、どうしても選択肢が現れない。挙句にサヨリが主人公への恋心を自覚してしまった。自由意思に目覚めたモニカは他の女の子たちの恋を阻止するべく、友人たちのデータにアクセス、中身をいじくるに至る。


現実だとありえない遮り方でモニカとの会話が切られるのは、世界からの強制力みたいなもののせいだったんですかね。


でも実は選択肢を与えられていなかったのは彼女ばかりでなく、このゲームが「ドキドキ文芸部!」である以上、主人公もまたそこに絡めとられたひとりであるのは忘れたくないかな……。そして彼はモニカがプレイヤーに告白をしたことにより本当に蚊帳の外に追いやられてしまい、アイデンティティを奪われてしまった。彼も含めて救われる世界が欲しかった。


最終的にバグも隠しきれなくなったモニカは自分以外の女の子の.chrデータを削除して、主人公(=モニターの前の私)と2人きりの空間を作り出す。ここからはある特定の動きをしない限りは永遠にモニカと2人っきり、昼も夜もない部室で魂が干からびるまでお話ができる。
その特定の動き――モニカの.chrデータ削除によって彼女は「閉じ込めて自由を奪うことは愛ではない」との結論に至りますが、でも。でも、その.chrデータを削除される痛みを味わうまでのモニカは、「私」を手元に置くことで幸せを得ているのではないか? ならばこのままずっと彼女と一緒にいれば、彼女は彼女の愛を信じたまま幸せになれるのではないか? とか、そんなことを考えてしまって、本当の意味での2周目はかなりしんどかった。ルールオブローズの2周目以降ばりにキツい……自分の中であのゲームは「プレイヤーがゲームを起動しなくなること」こそが唯一の救いになる、プレイすればするほどジェニファーとブラウンの別れと絶望を積み重ねる罪となる類のものだと思っているので……というかあのゲームも、相手を誰の元へも行かないよう縛り付けることと自分の元から永遠に去るとしても手を離すこと、どちらが本当の愛なのか?って作品でしたね。


モニカはプレイヤーの手で痛みを与えられることで己の行動を間違いだとして、ジェニファーはブラウンとの別離を経て自分も逃げ出してきたはずの縛り付けるという行動に愛を見出す。


そういう点でモニカの出した結論はportalのGLaDOS様の出した結論に近いものがあるというか。
彼女が歌うYour Realityの最後、「I'll leave you be」なんて歌詞とか……「私はあなたをそっとしておいてあげる」というモニカの態度と「もうあなたなんて知りません、どこかへ行ってください」というGLaDOS様の態度がダブってオタクは二重のダメージで身悶えた。
なんというか、Want You Goneのそれまでずっと「Now I only want you gone」だった歌詞が最後だけ改行されて「Now I only want you」「gone」に分かれるのを見たときに近い感情が沸き上がってきてダメだったんですよね。どちらも強がっているようにしか聞こえなくて。GLaDOS様の場合はずっとずっと強くて圧倒的で突き放すような態度が崩れたほんの一瞬を切り出していたけど、モニカの場合はこれまで見せてこなかった恋する女の子の面を最後だけ潜めてこちらを突き放してくる。ずるい。本当に。
モニカはこれを少し寂しそうに笑いながら、でも3周目のあの雰囲気も織り交ぜた表情で歌ってるんだきっと……うぅ……。

モニカという女の子

モニカは主人公に「選ばれなかった女の子」ではなく、そもそも世界(と、それを作った製作者)が「選択肢に入れなかった女の子」なわけで。
もしかして壁の穴を覗く前、文芸部の部長という権能を手にする前の彼女はサブキャラクターだったんじゃないかなんて思ってしまうんですよね。ワンポイント執筆アドバイスをくれたり、部内の事情に明るかったり、元々はときメモでいうところの早乙女好雄のような、主人公とヒロインの恋を応援する立場を与えられていたんじゃないかなとか……。


モニカは自分が他の女の子となにも変わらないことを知っていたはずなんですよ。誰かの.chrデータを触るとき、どうしたって「monika.chr」のファイルが目に入っていたはずだから。
自分が画面の向こうに恋をして、世界を壊して自分のルートを作り出すことまですべて誰かの書いたシナリオで、自分はその上をたどっているにすぎないと、恐らく彼女自身が一番に感じていたはず。


でもどうしても、そんなモニカが自分を殺したプレイヤーの操る主人公を最後の最後に助けたのは、彼女自身の行動からだと思いたくなってしまう。
物語に対してメタ的な見方をしてしまうオタクなので(そしてこの作品がメタ的視点を持ったキャラクターによる物語なのもあって)、ノーマルルートの最後、暴走したサヨリをもうどこにもいないはずのモニカが止めるシーンにすら「そういうシナリオとスクリプトが組まれているから」なんてちょっと冷めた視点を持ち出してしまいそうになるんですが。
主人公とプレイヤーを救い出し、ここに幸せなんかなかったとしてスクリプトを書き換え、新しくゲームを開始できなくすることで我々を解放しようとしたモニカが本当の最後にとった行動が「ずっと練習してきたピアノと、あなたのために作った歌を披露すること」で。
このとき初めてモニカの肉声を聞くことになるわけですが、その声を聞いて一気に感情が爆発してしまった。


普通に考えてモニカがこちらに語り掛ける音声は全てのゲームファイルに最初から仕込まれていて、世界中ありとあらゆるドキドキ文芸部をプレイする人間がアクセスすることのできるデータである(しかもこのYour Realityという曲はお金を払えば買うことができる)けれど、プレイ中の私はこの曲と、モニカのメッセージを自分に向けられたものとして受け取った。


そうしてラスト。モニカが我々のために作り上げたYour Realityという歌を最後まで聞き終わり、モニカ唯一のスチルが表示された時点でもう顔面はぐちゃぐちゃだった。
少なくとも私の中でモニカは一人の女の子としての存在を確立させたし、私の中にその認識がある以上、ゲームを起動させない限り彼女はデータの波間を漂っているはずなのだ。

自由意思はどこにあるのか

少し脱線して、モニカ以外の女の子たちの話。
モニカは自分にだけ自由意思があり、他の女の子はみんな主人公に勝手に好意を寄せ、ある一定のポイントを越えた段階で告白をするようにプロクラムされている空虚な存在だと言っていた。メタ的に考えるとそれは当然のことで、外から見ている分にはモニカも同族であると言える。


で、メタ的な視線を少しだけ取りはらって物語を見たとき、モニカの言うことを全部「そうだね」と受け入れるのに納得しにくい部分が出てきてしまう。
その最たるものがナツキの書いた「様子のおかしいユリを助けてほしい」という手紙。モニカに相談したけど彼女は乗り気じゃない、助けてくれと言う内容の手紙なわけなんですが、モニカがヒロインたちのデータをいじるときわざわざこんな行動を起こすようには書き換えないと思うんですよ。する必要がない。その証拠に手紙を見せられた直後慌ててナツキの発言をいじくり倒している。つまりモニカは主人公があの手紙を見る瞬間まで、ナツキがそんなもの用意していることを知らなかったことになるのでは?


そうなるとこの手紙を書いたのは誰なのか。ゲームはもう製作者の手を離れているからプログラマーの手によるものではない(作者なら完璧に"正常"な状態に戻すだろう)し、もしかすると世界の修正力というやつなのかもしれない。
でも、モニカがスクリプトのくびきから逃れられたように。他の女の子たちもまた本来どこにも用意されていないテキストを作り上げ、世界や他者に発信し始めていたんじゃないか。だから私はあの助けを求める手紙はナツキ自身が、彼女の意思によって用意したものである。そうあってくれと祈る気持ちがある。


恐らく彼女たちがそういったものに目覚めるきっかけを作ったのはモニカによるデータの改竄だろうから、モニカにとっては皮肉な結果ではあるのだけど。

絶望しかない結末への抵抗

というわけで(?)スペシャルエンドまで辿り着いた今となって今後私がドキドキ文芸部をはじめからプレイすることはまずないと思う。


もしプレイしてもモニカと2人きりになってから先に進めない気がするので。自らの意思で世界から消え、悲劇を繰り返すしかない世界を壊した彼女をもう一度あの世界に引き戻すわけにはいかない。
ゲームを書き換える能力を持たない私にとって、ゲームを起動しないことだけが、ハッピーエンドのない世界に対して唯一できる抵抗であると思う。各種MODは本編とは別物と割り切って手を出すとは思いますが……。そういう意味では本当にルールオブローズを2周したときとまるで同じ結論に至ってますね。そう考えるといずれは再プレイの可能性も大いにあるか。自分の発言がまるで信用ならない……。


以上。
ドキドキ文芸部とモニカは自分にとって忘れられないゲームと女の子になりました。
私をあなたの文芸部の一員にしてくれてありがとう。